2021年12月8日 - 12月19日

石川慎平 / 重松慧祐 / 西村卓 / 岩岡純子 / 迫鉄平 / 對木裕里 / 前田春日美 / 水上愛美

#1 憑依する作法

PLY第一回目となる本展「憑依する作法」では、ゲスト作家を加えた8名の参加作家が自身の制作活動についてしたためた「作法(作品を成立させるために欠かせないと考えている行為や心構え)」を無作為に交換しあい、受け取った他者の作法を忠実に守ったうえで新たな作品を制作しています。作家それぞれ異なるであろう作法をお互いに擬似体験することで、半ば強制的に他者との対話が生起します。

他者が大切にしているものを自分も大切にしてみる。そうして他者を受け入れた時に、自作はどのように変化するのか(あるいは変化しないのか)。対話を軸につくられる本展は、展覧会という形をした作家同士のワークショップと言えるかもしれません。それぞれの作法と作品から垣間見える対話の痕跡を通じて、普段の展覧会では表に出てこない作家の一面をお見せできる機会になれば幸いです。

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artist

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石川 慎平|Shinpei ISHIKAWA

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1989年 東京生まれ
2014年 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程 彫刻専攻 修了

2021年 個展「フェアプレー」Komagome1-14cas(東京)

2021年「BankART AIR Winter」BankART Station( 神奈川 )

2019年「grove|SUPEROPEN STUDIO 2019 SOMETHINKS」アートラボはしもと ( 神奈川 )

2019年「群馬青年ビエンナーレ」群馬県立近代美術館 ( 群馬 )

日々の記憶や感覚を紡いで、形に残したいものを主に木彫で制作。 金色のグリッターで表面をコーティングされた木彫はトロフィーや 銅像のようでありながらも、チープな輝きを放ちます。 何事も早い速度で進む現在に流されてしまわないために、楔を打つ ように私的な形を残していますが、制作を通して自分にとって何が 大切なのか / 興味があるのか気付かされることもあり、自分自身を 確かめる行為のようでもあります。

【今回の制作について】 西村卓​の作法が憑依

 

作品の完成像はあまり考えない」という指示書の内容から、普段のような完成図(デッサン)を木材に写し、それを頼りに形を作っていく木彫制作は難しいなと感じました。

 完成像を考えないで(というより予測できないように)制作するために、可塑性がありながらも自分にとって未知数であったパラフィンワックスと蜜蝋を、削ったり盛り付けたり炙ったりしながらアカデミックな人体彫刻の制作を目指しました。素材の性質上、狙ったように形を留めるのが難しく、長い間格闘したのですが、思うように理想に近づけない制作の中で「なんかこれでも良いか」とふと気が楽になる瞬間がありました。きっちりこなしたい自分にとって新鮮な感覚で、自分の理想より目の前の形に可能性が見えた気がします。

泥臭く形を追いかける作業は、予備校で真っ黒な石膏デッサンを描いていたことを思い出させました。

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《catch a body》 パラフィンワックス、蜜蝋、クレヨン、鉄

重松 慧祐|Keiske SHIGEMATSU

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1986年 山口県出身
2012年 武蔵野美術大学大学院美術研究科博士前期課程 彫刻専攻 修了

現在、神奈川県清川村アトリエにて石彫制作を展開。
2021年「観測地」ART SPACE 布布(茨城)
2020年「緑と道の美術展 」川崎市 黒川里山地帯(神奈川)
2019年  個展「石鏡」いりや画廊(東京)
2017年「 ARTsessionTSUKUBA 」平沢官衙移籍(茨城)
2007年「 カウラアートプロジェクト」 オーストラリア ベルビューヒル 保護区

 

自作についての思考を置き去りにする為に頭像制作を選択しまし た。やはり、転がしながら、内側に向かって斬って叩いて潰して いくことが自分の中で大切なことのようです。

【今回の制作について】  石川慎平​の作法が憑依

 

「憑依する作法」展に臨むにあたって、通常の制作作法を置き去りにする必要があると考え具象頭像制作を基盤として指示書と向き合うことにした。主題を他人に明け渡すことを通して逆に、今までの自作と重なるどうしても変わらないものを感じる事ができた。振り返れば自我を持って一人歩きしている脈のような存在がずっと自分と重なっている気がする。体を揺すってウォーミングアップを終えればいつのまにか形はどうでもよくて、一次元的な意志(造形する自分の選択への興味)を石にぶつける、この反射のやり取りが目をつむって根っこ延ばしていくように光る。頭像たらしめる座標にタッチするために、何十分かおきに浮上しなくてはいけなくてそこまでの幅でどういうチャンネルに作品を存在させるかの自分への問いが常につきまとって新鮮だった

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《引力のスカル》 小松石

岩岡 純子|Sumiko IWAOKA

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​1982年 千葉県出身

2009年 東京芸術大学大学院美術研究科修了

2013年 個展「美人画展」3331 Gallery(東京)

2021年「Collector's Collective Vol.5」biscuit gallery( 東京 )

2020年「シェル美術賞2020」国立新美術館(東京)

名画の中の人物を、現在の世界の中に連れ出したかのような絵画を制作しています。タイムスリッフを描く物語では、だいたい登場人物が時代の変化に戸惑う様が表現されていますが、絵の中の人物は思いのほか自然に現代の風景の中で落ち着いているように見えます。 激変する世の中に於いても、人間はそれほど変わらないということなのかも知れませんが、名画の人物を現代の世界へと導いたつもりがむしろ私自身が今を見つめ直すきっかけを作ってもらったようにも思えます。

  

【今回の制作について】 重松慧祐​の作法が憑依

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重松さんの作法の『素材・支持体と対峙し始めてから発生する関係性が最も尊い』という一文に制作の手がかりを求めて、普段の制作で油絵と紙を使うことが多いのでその2つの素材で対峙できるか考えました。
思い付いたのは紙を貼って剥がす行為(デコラージュ)でした。予期せぬ剥がれ方をするので素材と対峙するにはいいかもしれないと。
イメージとしてはポスターが貼られ剥がされている街の壁、選挙ポスター、掲示板等を想起しました。東京国立近代美術館はよく行くし、チラシも溜めてあったこと、また掲示板と美術館がセットで構図に入りそうで絵にしやすそうだと思いました。私の制作のテーマが時間や変化だったりするので、掲示板が会期によって新しく変化するのを濃縮したようなごちゃ混ぜにした作品にしてみようと思い制作しました。

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《掲示板-東京国立近代美術館-》 キャンバスに油絵具、コラージュ(東京国立近代美術館のフライヤー、収蔵作品のプリント)

前田 春日美|Kasumi MAEDA

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1991年 東京都出身

2019年 武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻彫刻コース修了

2021年「ポリフォニックなプロセス+プレッシャー」 はしっこ ( 東京 )

2020年「本のキリヌキ」 瑞雲庵 ( 京都 )
2020年「WALLAby」銀座蔦屋書店 ( 東京 )
2019年「D.A.AURA Residency Open Studio」D.A.Aura ( 韓国光州)

身体の不全性や不安を起点とし、身体への確信の持てなさや不安を拭 うように身体を確かめる振る舞いを記録したビデオワークを主に制作 している。 また、本来持っている身体(手足の長さや目で見える範囲)を映像を 撮ることによって仮想的に拡大し認識し直すことに取り組んでいる。

【今回の制作について】岩岡純子​の作法が憑依

 

今作は鏡に映った自身を透明な支持体になぞるように書いた等身大のドローイングをもとに制作しました。一枚は右手で、もう一枚は左手で描いたドローイングをもとに加工したアクリル板を二枚張り合わせ、線を石粉粘土に置き換えて構成しています。

  指示書通り、ノートを一冊用意して日々の出来事や思考を日付とともに書き留めていました。

書き進めていくうちに、数日前に感じたことをふと思い出してページを遡り文章を書き加えたり、文章と文章をページを跨いで線で繋げてみたり、気づくとノートの中は時系列がめちゃくちゃでした。ページをめくる動作は書かれている情報をもとに面と面、表と裏を行き来することでもあります。一枚の面を介するということは、普段の映像制作の中で布やガラス、壁などを扱うことに通じていると感じ、今作に取り組みました。

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《壁に踊る#1〜#6》 アクリル、石粉粘土

迫 鉄平|Teppei SAKO

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1988年 大阪府出身

2014年 京都精華大学大学院芸術研究科前期博士課程修了

2021年 個展『POOR, VIDEO, ANYTIME GOD.』Sprout Curation(東京)

2020年 『New Photographic Objects 映像の物質性』埼玉県立近代美術館(埼玉)

2020年 『All Along The WatchtowerYEBISU ART LSBO(愛知)

かけがえのない瞬間(= 点)として制度化されたスナップ 写真を、映像やコラージュ、シルクスクリーン製版など他 のメディアの介入によって解放することに挑戦しています。

【今回の制作について】 前田春日美​の作法が憑依

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与えられた指示書は一見すると、彫刻作品の制作に関するものであるように感じられたが、しばらく考えていると普段私が主に使用している映像や写真というメディアにもあてはめて考えることが出来るという考えに至った。

フレーミングという映像にも写真にも所与されている“制約”は、モチーフや被写体の仕草や時間といった要素を、印画紙やモニターに「とどめる」ことを目的としている。

今回私がスナップ写真のもつ瞬間性を引き延ばすかのような映像作品と、そこに登場するモチーフ、被写体を切り撮った写真作品とを並べて提示した試みでは、映像と写真、それぞれの「とどめる」をぶつけ合うことで、メディアが持つ固有のフレーミングという形式の外にある(思い込みにも近い)ニュアンスを発生させることを目的としいてた。

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《Shapes Of Things(相対ピン)》 シングルチャンネル・ヴィデオ

對木 裕里|Yuri TSUIKI

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1987年 神奈川県出身

2009年 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業

2011年 京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
2021年 個展「ばらばらの速度」横浜市民ギャラリーあざみ野(神奈川)

2021年 個展「手のたび では いっておいで」神 奈川県民ホールギャラリー(神奈川)

2020年 個展「みぞおちの石」ギャラリーNEW 新九郎(神奈川、

2020年 個展「VOID はひとつの MASS になる」VOID A PART(滋賀)

2019年 個展「玉と敷物」switch point(東京)など
2021年「トゥーマッチな風呂敷」second.2(東京)

2020年「a triangular pyramid」MEDIA SHOP gallery2 (京都)など

固いものと柔らかいもの、変化するものとしないもの、天地のあるものと無いもの、などという異なる 特性を持つ物質や事象を、自身の身体感覚を通して内面化する。再解釈された事象に新しい感触が現れる ことを目指している。

【今回の制作について】迫鉄平​の作法が憑依

 

受け取った指示書を見たとき、自分の普段の制作とかけ離れた印象を持たなかったので、さほど苦労なくできそうだなと思いました。指示書は手帳に挟んで時々見返していました。

ただ、実際に展覧会が迫って制作に取り掛かろうとすると、うまくできない。身体がバグったような感覚。これはなんだ?と考えてみると、私はこれまで「自分の制作」というかたまりを、切り分けて考えてこなかったことに気づきました。

決められた時間と場所の中に、身体ごと放り投げて作品を見つける。なんというか量的な制作。他者のシステムというものを意識してしまった瞬間から、頭も身体もぎこちなくなってきたので、一旦指示書は伏せました。自分の身体を取り戻してからは、指示書は良きアドバイスをくれる友人として隣にいてくれました。

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《ペーパー/ドローイング》 石膏、紙、木材、チェーン、ガラス球、金属球、砂、なわ

水上 愛美|Emi MIZUKAMI

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1992年 東京都出身

​2014年 多摩美術大学絵画学科油画卒業

2021年 個展「Dear sentiment」TOKAS Hongo(東京)
2016年 個展「底流/Large eddy」ワンダーサイト渋谷(東京)
2021年「エマージング・アーティスト展」銀座蔦屋書店(東京)
2021年「dawn」東急渋谷プラザ(東京)
2020年「4649 at Pina」Pina(ウィーン)

膨大な時間の中で、様々なイメージを見知らぬ誰かが生み出してきた。
その星の数ほどのあまりに膨大なストックのなかから、新しい1つの物語を完成させるために、異なる地域・時代の神話や逸話、現象、モチーフを採取し現代の作品として再構成する。何遍も繰り返される世代の中で、1000年前の他者、1000年後の他者とも共感をし、考えを分かち合うのは容易いものであるという期待を込めまだ見ぬ他者のために今、イメージを描く。

【今回の制作について】對木裕里​の作法が憑依

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受け取った作法を基に色彩の決定権を自分以外の存在に委ねる試みを行った。

「自分を信じすぎないでください」という指定に挑むために絵画上の色彩決定権を手放し、web上で見つけたルーレットでランダムに色を選ぶプログラムを使用した。
イメージや素材は普段作成している作品から大きく離れたものではなくプロセスの変化は開示しなければ気づかれないものではあるが、「選ばれた色を使うこと」と「選んだ色を使うこと」の違いを考察するきっかけとなった。
普段孤独な作業である絵を描くという行いの中から、一つの選択の決定権を自己の外に委ねるということは作品の中に他者を招き入れる行為でもあったため、他者との関わりをモチーフにしたイメージを選択し、longing(思いこがれる)をタイトルにした。

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《untitled》《longing》 キャンバスにアクリル絵具、チャコールペンシル、サンドペースト、砂漠の砂

西村 卓|Taku NISHIMURA

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1990年 岐阜県出身

2016年 多摩美術大学大学院博士前期課程彫刻専攻修了

2021年 個展「埋める/埋もれる」/hasu no hana(東京)

2021年 個展「IN⇄OUT」/ノリタケの森ギャラリー(愛知)

2020年 個展「IN&OUT」/ギャラリィK(東京)

2018年 個展 銀座蔦屋書店主催「拡張都市」/銀座蔦屋書店 (東京)

「感情や感覚と行動や言動のズレ」など表と裏の関係性あるいは一見すると対立軸にある関係性について考察し、日記のような感覚で作品を制作しています。

対極に存在するような様々なモノ・コトは一つの水平線上に同時に存在し、すべてのことが相互に関係し合っているではないだろうか。

そんなことを私は今、考えています。

【今回の制作について】水上愛美​の作法が憑依

 

今回の作品制作では、今までにないほど悩みながら制作していたように思う。

僕が受け取ったのは水上愛美さんの指示書だった。彼女の指示書は文面がスクエア状に紙面中央に配置されていた。中には「自分の感覚を1割ほど裏切る」とあり、とても困惑し、まず自分に落とし込む作業から始めた。

なかなか本展に出す作品の初手を捻り出すことはできなかったが、制作や生活の片隅でその言葉は常に自分の中に残っていた。今思うと、PLYに出していない作品の制作においても少なからず影響していたような気もする。

展示まで1ヶ月を切った時期にようやくプランが決まり、制作を始めた。本作では自身の手仕事を最低限に絞り、他者が作品に介在できるスペースを設えることに専念した。指示書が自分の中で新たな可能性を導く手助けをしてくれたようだ。

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《マルチプル・モノポリー》 OSB合板、珪砂、積み木、スコップ、バケツ、鉄

talk event

【第一部】石川慎平×重松慧祐×迫鉄平×前田春日美 / 司会:上久保直紀

【第二部】石川慎平×西村卓×對木裕里×水上愛美 / 司会:上久保直紀

review

指示書の効用

 

上久保直紀

 本展「憑依する作法」では、参加作家八名の作品について、それぞれこれまでのポートフォリオにはなかったような特徴が見られた。たとえば木彫を主にしてきた石川慎平は素材を変えているし、抽象的な形体を扱ってきた重松慧祐は具象的な頭像を、立体造形を主に制作してきた西村卓は参加型の作品を出展している。素材や技法、形式と形体、モチーフ、表層的な要素から内容面まで、作品ごとに異なった位相で、なにか目に留まる要素がある。まず、このような変化はどのようにして起こったのか。

 参加作家が自身の制作における「作法」を指示書にまとめ、交換しあう、というのが本展の持つ唯一の企画性であった。全体を貫くキュレーションはなく、事前に顔を合わせたのも、指示書をランダムに配布するために実施したオンラインでのシャッフル会と、会場下見程度のものだった。受け取った指示書が誰のものだったのか各自に周知されたのも、会場で配布するハンドアウトを確認のために共有した搬入前日のことだった。これはゲスト作家に限らず、企画グループのメンバーも同様で、作家陣はみな同じ状況下で新作を制作している。影響を与えあうようなことがあったのだとしたら、それは公開されている指示書のやりとりによるものがほぼすべてということになる。

 指示書には「作法」がまとめられている。この企画における「作法」とは、「作品を成立させるために欠かせないと考えている行為や心構え」、あるいは「制作活動においての大切にしていること、システム、信仰、コンディションを整える方法、制作環境のルール」などである。これは企画の発起人である重松や、石川の語彙だ。羅列されている文言を分類するならば、「コンディションを整える方法」や「制作環境のルール」は、制作に入るにあたっての周縁的な設定についての言及と言うことができ、「心構え」や「信仰」は内的な指示、「システム」は技法や方法論に言及する語句と解釈できるだろうか。概ね三種類の傾向を持った指示が「作法」と呼ばれてきたと捉えられる。

 なお、これは見直すまでもないことだが、全員がこの三つの要素を網羅するように指示書を作成したわけではない。作家はそれぞれ、このどれかを記述し、どれかを記述していない。その選択をおそらくは無意識的に、あるいは意識的な優先度の判断によって行っている。もちろん明瞭に分けられるものではないし、書かれた意図と受け取る人の読み方にも違いが生じるため、各指示書の一文一文を明確に選り分けることはできないのだが、本展で生起した影響関係について振り返るにあたって、この分類は補助線として役立つかもしれない。

 具体的に当てはめて考えてみるならば、たとえば岩岡純子の指示書は、制作に入る前のメモに着目したものであるから、周縁的な設定についての記述で全体が占められており、内的な指示や、技法や方法論の記述を含んでいないと言える。逆に前田春日美の指示書は内的な指示で占められ、周縁的な設定や、技法や方法論の記述がないように読める。迫鉄平の指示書は、作品の点数などの方法論についてと、BGMなどの周縁的な設定の記述で構成されており、内的な指示がない。石川の指示書では、二段に分かれている内、一段目は内的な指示、二段目は周縁的な設定と読むことができるだろう。一段目には制作の前にするデッサンについての記載もあり、その部分は方法論としても捉えられるが、全体としては、技法や方法を制約する指示よりも、内的な指示と周縁的な設定の二つの要素に文量が割かれていると言える。どこにフォーカスしたかという作家ごとの差異が、この分類によって、多少は見通しよく把握できる。ここで見られる傾向は、今回見られた作品の変化の質と同期しているかもしれない。

 これは会期最終日に実施したトークイベントで明かされたことだが、水上愛美は本展出品作で、使う色をすべて、プログラミングしたルーレットに任せて選択したという。「塗りつぶす」という、水上の絵画制作において重要と思われる行為に伴う色選びを、驚くべきことにルーレットの運に任せたのである。これは受け取った對木裕里の指示書にあった、「自分を信じすぎないでください」という指示を貫徹するためのアイデアだったようで、どのように指示書を取り入れられるかを模索した末に、もっとも自分を信じずにいられるやり方として採用した方法だという。

 ここで水上自身の「作法」指示書に立ち返ってみたい。すると、そこに技法や方法論についての記述がなかったことに気づく。水上の指示書は四つのセンテンスで構成されているが、前半の三つの文章は内的な指示で、四つ目の文章は周縁的な設定についての記述となっている。技法や方法論については触れられておらず、空白だ。つまりその空白に、すとんと對木からの指示(を水上が解釈したもの)が入り込んだように思えるのである。「作法」の空白に他者の「作法」が憑依する。他の作家たちの指示書の取り入れ方を考えても、概ね近い印象を受ける。指示書が大きく影響を与えるのは、その受け取り手の指示書になかった要素、すなわちその作家が「作法」として自覚しているような事項を持たない領域においてなのではないか。言い換えれば、いくら指示書を受け取ろうとも、自分で言語化できているほどの「作法」があるような部分は揺るがない、という身も蓋もない結論になるのだが、考えてみればこれは当然にも思える。変化はさまざまに見られながら、それでもやはりその作家の作品であるとわからせる一貫性は、その憑依されない部分に依るだろう。

 では、指示書は表面的な変化を生むだけだったのかといえば、そうとも言えない。

 石川はトークイベントにて、指示書を守ろうとしても自分のやり方を変えられない部分があり、それを通して自分の「外せないポイント」を自覚したという旨の発言をしている。どこまでが憑依され、どこからが憑依されないのかは、試さなければわからないことなのだ。他者の指示書に従うことは、「外せないポイント」の周囲にあった謂わば「外してもいいのに外してこなかった部分」を削ぎ落とす行為だった。さらに言えば、對木が「お守り」と呼び、前田が「いい言い訳になった」と表現し、西村が「こういうのもありか、と思う助けになった」という指示書の効用は、その削ぎ落とされた部分を埋める手つきを肯定することにあった。指示書があったからこうなったのだというエクスキューズは、お守りとなり、言い訳となり、助けとなり、普段とは違う制作を肯定する。

 しかしこの肯定は、あくまでもこの企画内においてのみ暫定的に機能するものだ。指示書が効力を失ったあと、削ぎ落とした部分を埋める手段の再検討を迫られることもあるのかもしれないし、元あったかたちに戻そうとしても、そっくり同じには戻らないということもあるかもしれない。抽象的な物言いになってしまうが、それはこれがまだ起きていない話だからだ。また、仮定の話を続ければ、今後出展作家の内心にそのような苦労が生まれることがあったなら、そのときに本展は成功したと言える。

 そもそも本展の、もとい企画グループPLYの活動目的は、作家同士の対話や交流の機会をつくり、それを作家が自身の制作活動を継続させていくのに役立てられるようにする、というところにある。削ぎ落とされた部分に新しい肉がつき、次の作品が生まれる推進力となったとき、再度本展を振り返る時間がやってくる。

PLY#1憑依する作法

会期:2021年12月8日 - 12月19日
会場:Koganei Art Spotシャトー2F
企画:PLY
協力:梁 玉恬(フライヤーデザイン)
助成:多摩美術大学校友会、横浜美術大学